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蟲の谷にて。

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丘の上に続く見晴らしのよい道を歩いていた。
こんな道をずっと行くのだったらよいなあと思ったが、
現実はそうはいかない。
やがて小さな分岐が現れ、
そこには真新しい張り紙があった。
フランス語でしか書かれていないので詳細は不明だが、
どうやら「GR65のルートを一部変更した。ここを左へ行くべし」
と書かれているようだった。
GR65というのは、
そのときサンチャゴ・デ・コンポステーラを目指して歩いていた道だ。
理由はさだかではなかったが、
持っていた地図上では、
その先からしばらく車道を歩くことになっていたので、
おそらくは車道歩きのリスクを回避するために、
新しいルートがつくられたのだろうと推測してその指示に従う。
いくつかの同様のサインを横目に車道を横断し、
反対側の森に入っていくと、
やがて道は沢沿いを行く小径になった。
視界が遮られ、風もなく、
じめじめと湿気が溜まっているあまり気持ちのよくない土地だった。

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さらには出自は不明なれど、
ひどい悪臭も漂っている。
なんだろうこの臭いは……。
ゴミや生物の腐敗臭とはまた違うようなのだが。
そのうち顔に何度も蜘蛛の巣が引っかかるようになった。
最初はただ鬱陶しく思い、
棒を振り回していたのだが、
やがておかしなことに気づく。
この日、この道を歩いたのは僕が最初ではないはずだ。
昨日泊まった宿からは何人もの巡礼者が先に出発していった。
なのになぜ蜘蛛の巣が健在なのだ。
まさか。
道を間違えたか……。
いやそんなはずはない。
その道が正しいことを示すマークは、
ずっと点在している。
じゃあなんで蜘蛛の巣が……。
そして闇雲に蜘蛛の巣に突っ込むのではなく、
どんなふうに蜘蛛の巣が張られているのか観察しようと思ったときに、
謎のひとつが判明した。
樹木のすき間から差し込む日差しに輝いているのは
蜘蛛の巣ではなかった。
枝からまっすぐと重力にしたがった垂れる糸。
それが何十本と。
そしてその先にはすべて毛虫が。

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わあ。
慌てて身体をチェックすると、
すでにシャツの上を何匹となく毛虫がのたくっている。
長さ20ミリ程度。
ストライプのボディに透明で細かな毛が生えている。
別に悪さをするわけではないので(たぶん)、
それほど怖れる必要はないのだが、
やはり気持ちのよいものではない。
一匹ずつデコピンで弾きとばし、
それからは毛虫の糸をなぎ払うように
棒を横に振るようにして先を急いだ。
やがてようやく毛虫の谷を抜けて、
以前のような開放的な道へ出た。
いやあひどい目に遭ったものだと、
あらためて身体をチェック。
いるいる。
気をつけていたつもりだったが、
シャツに帽子にバックパックに、
そしてないかには首筋に入り込んだやつも。
都合30匹近くは新たにくっついていたのはないだろうか。
ただしそこまでくるとこっちも慣れたもの。
入念に探し、
素手でつまんで順番に退場願う。
慣れというのはときに恐ろしいが、
ときには頼りになる。
ちなみにもうひとつの謎、
あの悪臭の正体は結局わからずじまいだったが。
ラスカバナス/フランス。2017年。

by apolro | 2017-10-17 15:44 | 旅の日々 | Comments(0)

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