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店のオヤジさんが想像でつくったといわれるチャンポン。

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一昨年に刊行されたものだが、
『町中華とはなんだ』という本を読んだ。
「町中華」ということばはあまり聞き覚えがないが、
いわれればすぐにピンとくる。
本格中華料理店でもラーメン屋専門店でもなく、
かといって中華系チェーン店でもない。
昔からたいていはどの町にも一軒はあって、
家族経営が基本。
中華といいながらカレーやカツ丼など、
準和食もメニューに並んでいる。
気がつけば街中で見かけることも、
ずいぶん少なくなってしまった。
そんな準絶滅危惧種となってしまった
「町中華」にフォーカスしたのが本書。
その本を後半まで読んだところで、
興味深い記述のぶつかった。
現物を見たことのない店主が、
自分の想像でつくったチャンポンを出す店があるというのだ。
少し前にそんなテレビ番組がありましたね。
世界各国の料理人に、
和食の名前だけを伝えてそこから想像した料理を作ってみせよ、
というやつ。
『妄想ニホン料理』というタイトルだっけ。
店があるのは西荻窪。
家からそれほど遠くない。
先日、思いきって足を向けてみた。
店の名前は『大宮飯店』。

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佇まいはシンプルで、
看板が出ていないと飲食店かもわからないぐらい。
西荻窪とはいっても駅からは徒歩15分といったところだろうか。
入ってみると、
まだ夜の部が始まったばかりということもあってか、
僕が露払いの客のようだ。
客席は長いカウンターのみで、
それに相対して調理場が延びている。
壁には大きな「御献立表」が。

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これだ。
この膨大なメニューの種類も町中華の特徴だ。
材料の仕入れだけでも大変だろうに。
一瞬、豊富なメニューに心が揺らいだが、
今回の目的はあくまでもチャンポン。
初志貫徹して「ちゃんぽん(メニュー表記ママ)ください」と注文する。
「はいー」という返事とともに待つことしばし。
「はい、ちゃんぽんですー」とカウンター越しに
目指すチャンポンはやってきた。
おお、たしかにこれは、
僕らが知る長崎チャンポンとはずいぶん様子が異なる。
長崎チャンポンの白いスープにくらべて、
こちらは醤油っぽいスープ。
そしてあんかけ状にとろみがついていて、
そのなかに溶き卵が見え隠れ。
もやし、ニンジン、キャベツ、なるとと具材は豊富だが、
魚介類は見あたらない。
僕がこれまでに食べたことのある麺類では、
一番近い存在が広東麺かもしれない。
そして一杯のボリュームも多い。
お腹を空かせているときに来てよかった。
とろみのついたスープも、
寒空を歩いてきた身体にはうれしい。
店主のおじさんに話を聞いてみると、
この店を開いたのはかれこれ50年近くも前とのこと。
50年前といえば、
このあたりの様子もずいぶん変わったでしょうと尋ねると、
「いやあ、このあたりは当時から住宅街だから、あんまり変わってないんだよねー」という返事。
たしかに周囲は住宅ばかり。
会社もなく、前述の通り駅からも遠い。
「そうなんだよねー。西荻から15分、荻窪からなら20分かな。久我山、富士見ヶ丘からもそれくらいかなー」
そんな立地でよくも50年も続けられたものだ。
「いやあ、昔は忙しかったんだよ。朝から晩まで働きづめ。出前もやっていたし」
そうだ。昔はこういう店から出前の頼むのが普通だった。
「基本ひとりしかいないんだけど、それでも店を開きながら出前も行っていたからね。でもね、さすがに身体がしんどくなってきて、70歳になったのを機に出前はやめたよ」
えっ、70歳を機にって、親父さん今いくつ?
「もう80になった(!)」
80歳を過ぎていまだに現役。
素晴らしい。
「昔にくらべたらヒマになっちゃったけど、でも食べ物屋がチェーン店ばかりになって、どこにいっても同じ味になちゃったらつまらないでしょう」
おっしゃる通りでございます。
そうそう、店を訪ねた本来の目的であるチャンポン。
「このチャンポン、親父さんが思いつきで勝手につくったの?」とは、
小心者の僕にはさすがに質問できなかったけれど、
自分が勝手に「長崎チャンポン」をイメージしていただけで、
本来の「チャンポン」という意味が、
沖縄の「チャンプルー」と同様に
「さまざまなものをまぜこぜにしたもの」ということならば、
どのようなチャンポンがあってもそれぞれ正解ということなのだろう。
厨房を歩く親父さんはちょっと足を不自由そうにしていて、
それが心配だったが、
それでも元気でいるかぎりは頑張ってお店を続けてくださいねと、
心のなかで願いながら、
お勘定をすませて店をあとにした。
東京都。2018年。
by apolro | 2018-02-08 10:38 | 飲む日々、酔う旅、美味しい時間 | Comments(0)

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