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2018年銭湯行脚十三湯目、三河島『帝国湯』。

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梅が散っても銭湯行脚。
2018年銭湯行脚十三湯目は三河島の『帝国湯』。
今年の元旦から始まった銭湯行脚だが、
ここにきて自分のなかの「銭湯煙突レーダー」の
精度が上がってきたような気がする。
この日も地図でざっくりと場所を確認して、
ほど近いところまで歩いてところで、
「あのへんかなあ」と顔を上げたところ、
建物のすき間から、
屹立する煙突をビシーッと確認できた。

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下町ならではの細かな路地を抜けて煙突を目指す。
すると現れました『帝国湯』。
ここもほかのいにしえ銭湯同様に立派な建物だが、
その佇まいはちょっと印象が違っている。
背筋が伸びているというか、
毅然としているというか、
寺社というよりは武家屋敷のような趣だ。

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染め抜きの暖簾、
そして暖簾まわりの造作もシブイ。
暖簾をくぐって目の前にあるのは傘用ロッカー。
先日訪ねた駒込の『亀の湯』にも縦挿し式の傘ロッカーはあったが、
こちらは横挿し式。

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まるで通常ロッカーのミニチュア版だ。
この写真だけ見ると鍵がやけに大きく見えるね。
さっそく木戸を開いて、
番台に座るおばちゃんにお金を払って脱衣所へ。
飴色に染まった立派な格天井には風格さえ感じられる。
柱には「贈」と書かれた大きな柱時計がかかっている。
時間を見るとどうやら今もちゃんと動いているようだ。
浴室にいたのは4人ほど。
銭湯絵は定番の富士山。
手前には松が生えた岩々が水面からいくつも顔をのぞかせている。
右下に「西伊豆」と書かれていたので、
雲見あたりからの構図だろうか。
富士山の中腹あたりの空を、
真っ白な水上飛行機が飛んでいるのが新鮮だ。
銭湯絵の下、
浴槽の脇にはタイルの上には幾匹もの鯉が描かれ、
男湯女湯を隔てる壁には細かなタイルを用いた海のモザイク画が。
隔てる壁は存外低く、
ジャンプしたら向こう側が見えてしまいそう(コラッ)。
湯船は三つに分かれていて、
向かって左端が小さめの薬湯。
真ん中が泡風呂。
右端は通常の風呂か。
身体を洗ってさあ入浴という段になって驚いた。
「下町の銭湯は熱い」というのはよく聞くことだが、
ここのは熱さは尋常じゃない。
ヒザまで入ったところで慌てて飛び出し、
次はモモまで、その次は腰までと、
まるでテレビのどっきり番組で、
ブーブークッションに座った演者の動きを
行きつ戻りつ再生しているようなことを繰り返すハメになった。
隣りの薬湯に入っていたおじいちゃんが、
その光景を見ていて、
「お兄ちゃん、熱くて入れないかい?」と話かけてきたので、
てっきり「最近の若いもんはだらしないねえ」と
嘆かれるのかと思ったら、
「こっちのお風呂はちょうどいいよ」と場所を譲ってくれようとした。
さすがに僕も熱さにようやく慣れてきたところだったので、
お礼だけいって辞退したが、
地元のおじいちゃんでも、やっぱり熱いんじゃん。
ただしあんまり長湯をしていると、
完全にのぼせそうなので、
早めに上がって脱衣所で身体の火照りをさます。
団扇で身体を扇ぎながら番台に座っていたおばちゃんに声をかける。
(ちゃんと服は着てますよ)
下町というとついついうちの母のような
べらんめえ調のおばちゃんを思い浮かべてしまうが、
こちらのおばちゃんはとても上品なかたで、
こんな言い方はよろしくないのかもしれないが、
ちょっと下町っぽくない。
帝国湯がこの地で銭湯を始めたのは大正5年。
現在の建物は昭和27年に建てられたものだそうだ。
「しっかりとした造りですね」と尋ねると、
「そうなの。東日本大震災のときもヒビひとつ入らなかったわ」
という誇らしげな返事が返ってきた。
「でもね。建具とか指物部分はどうしてもすり減ってきちゃうでしょ。どうしようかなと思っていたら、うちに来てくれている大工さんでそういう技術を持っている人がいてね。あちこち直してくれるのよ。屋根の瓦も痛んでいたんだけどやっぱり瓦職人さんがいて、去年葺き替えてくれたの。本当にありがたい話ね」
おお、さすが下町、職人の町。
入る前に感じた外観の印象は、
瓦が葺き替えられたばかりというのもあるのかもしれない。
地元の人が、
入りにくるだけでなく、
建物の維持管理にまで積極的関わってくれるとは。
密接な人間関係を持つ、
下町銭湯の実力をかいま見た気がした。
ちなみに創業の大正5年といえば、
世は第一次世界大戦のまっただ中。
帝国湯という名前は、
つまり、そういうことなのだろうな。

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引き戸を出て振り返ると、
三峯神社の護符が掲げられていた。
東京都。2018年。
by apolro | 2018-03-12 10:23 | 銭湯行脚 | Comments(0)

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