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不思議な巡礼者。

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サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を歩いていると、
たまに逆方向、
つまりゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラ側から
歩いてくる巡礼者に出会うことがある。
いわゆる逆打ち(さかうち)というやつだ。
日本の四国遍路にも逆打ちはあって、
四年に一度、
定められた年に逆打ちで巡拝すると、
通常の巡礼(「順打ち」という)の三倍の功徳を得られるらしい。
映画『死国』では、
死者の年齢の数だけこの逆打ちを成就させると、
死者を蘇らせることができるという、
ちょっと恐ろしげな設定もあった。
ただし四国遍路の標識等は、
順打ち向けに設けられているので、
逆打ちは道を間違えやすかったりして、
初心者にはちょっと難度が高いらしい。
サンティアゴ巡礼路の逆打ちに、
なにかそういった特別な意味があるのかは不勉強にして知らないが、
実際に歩いている人に聞くと、
サンティアゴをスタートして、
自宅をゴールにしている人が多いようだ。
今回、7月中旬にスペインとフランスの国境近くで会った、
逆打ちの巡礼者は、
なんとパリの家まで歩いて帰るそうで、
「家に着くのは9月中旬だよ!」と笑っていた。
陸続きの国同士ならではの感覚である。
さて本題。
巡礼中のある日。
いつものように早朝に宿を出発。
2時間ほど歩いたところで逆打ちの巡礼者とすれ違った。
青い帽子に淡い色のシャツ、
小さめのリュックを背負い、
杖を持った初老の男性だった。
こういうとき、巡礼者同士はたいてい、
「ボンジュール」と挨拶をしあうので、
僕もいつものように彼に声をかけた。
しかし、
彼から返答はなく、
かといって気がつかなかったわけではないようで、
ちょっと首を傾げながら、
はにかんだような笑顔を見せた。
そのときは「シャイな人なんだな」程度にしか思わなかった。
それからさらに2時間ほど歩き、
辿り着いた村のカフェのテーブルに座りビールを飲んでいると、
また逆打ちの巡礼者が歩いてくるのが見えた。
「今日は多いな、逆打ちの人」と思いつつ、
その人を眺めた瞬間に気づいてしまった。
さっきの男性だったのである。
服装も背格好もまったくの同一人物。
以前出会ったのが何日も前なら人違いということもあるだろうが、
なにしろ2時間まである。
しかも声までかけている。
混乱する。
もしかしたら彼はどこかで道でも間違えたのだろうか。
しかしそこは一本道で、
迷うような要素はない。
そもそも彼は再び同じ方向からやってきたのである、
たとえ迷ったにしても、
別の道を急いで迂回し、
僕が2時間歩いたぶんを先回りして、
また同じ道を歩いてこなければならない手間になる。
そんなことをする理由がわからない。
さっきまでかいていた汗が、
背中を冷たくしたたり落ちる。
なぜか彼に再び声をかけることはためらわれ、
僕はカフェの前にあるテーブルに座ったまま、
彼が通り過ぎ、
見えなくなるのを静かに見送った。
もう一度遭遇したらどうしようと思いながら。
フランス/2019年。
by apolro | 2019-07-26 14:31 | 旅の日々 | Comments(0)

今日の旅、昔の旅、そして狭間のよしなしごと。

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